最高裁判所第二小法廷 平成11年(許)33号 決定 2000年6月23日
抗告人
株式会社X
上記代表者代表取締役
A
上記代理人弁護士
松村博文
相手方
株式会社Y
上記代表者代表取締役
B
上記代理人弁護士
岩井昇二
主文
原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却する。
抗告に関する総費用は相手方の負担とする。
理由
抗告代理人松村博文の抗告理由について
一 記録によれば,本件の経過は次のとおりである。
1 a信用金庫は,b株式会社に対する信用金庫取引契約等に基づく債権を被担保債権として,原決定別紙物件目録記載1ないし3の不動産(以下「本件不動産」という。)について根抵当権の設定を受けていたものであるところ,東京地方裁判所に対し,右根抵当権の実行として本件不動産の競売を申し立てた。同裁判所は,平成10年1月30日,右申立てに基づき,本件不動産について競売開始決定をした。
2 相手方は,右根抵当権が設定された後である平成8年5月20日,本件不動産のうち,右物件目録記載2の建物の1階部分及び2階の北側部分(以下「本件賃借部分」という。)について,所有者であるCから賃借期間を同年6月1日から同11年5月31日までとして借り受けた(以下,右賃貸借を「本件短期賃貸借」という。)。
3 東京地方裁判所は,平成11年2月17日,本件不動産について,抗告人に対して代金1億0500万円で売却を許可する旨の売却許可決定をし,抗告人は,同年3月18日,右代金を納付した。
4 抗告人は,本件短期賃貸借の期間が平成11年5月31日に満了したので,同年6月8日,東京地方裁判所に対し,本件賃借部分につき不動産引渡命令の申立てをした。同裁判所は,同月9日,相手方に対して抗告人に本件賃借部分を引き渡すことを命ずる不動産引渡命令(以下「本件引渡命令」という。)を発した。
5 相手方は,本件引渡命令に対して,執行抗告を申し立てたが,東京地方裁判所は,民事執行法10条5項4号に該当するものであるとして右執行抗告を却下した(原々決定)。相手方は,原々決定に対して同条8項に基づき執行抗告(以下「本件執行抗告」という。)を申し立てた。
二 原審は,右の事実関係の下において,相手方が本件短期賃貸借に基づく占有をもって抗告人に対抗することができる余地がないとはいえないとし,当初の執行抗告が民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたものということはできないと解すべきであるから,原々決定は不当であるとしてこれを取り消し,不動産引渡命令の申立てを却下した。
しかし,競売開始決定後に短期賃貸借の期間が満了したときは,法定更新をもって抵当権者に対抗することはできないと解すべきであるから,本件において,相手方は抗告人に対抗することのできる権原により占有している者であると認めることはできないところ,記録によれば,当初の執行抗告につき相手方代理人弁護士が提出した執行抗告理由書における抗告の理由は,本件短期賃貸借の期間が更新されたことを前提として,相手方が抗告人に対抗することのできる占有権原を有しているとするものにすぎないから,本件執行抗告は,民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたものと認めるのが相当である。したがって,これと異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。この点をいう論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,右によれば,当初の執行抗告を却下した原々決定は正当であるから,相手方の本件執行抗告を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 梶谷玄 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫)